【レビュー】アイリスオーヤマの経営理念 大山健太郎 私の履歴書 大山 健太郎 (著)

出版社: 日本経済新聞出版社 (2016/12/8)

2011年3月に東北地方を襲った地震と津波。

宮城県仙台市に本社を置く、アイリスオーヤマ株式会社も甚大な被害をこうむりました。

震災直後の月曜日、社長である著者「大山さん」は、出勤できたおよそ半数の383人の社員を前に朝礼を行いました。
その時の様子を、こう語っています。

誰もがうなだれていた。
私は語りかけた。
家族が心配だろう。しかし、私達の商品を出荷することが東北の復興になる。
企業には企業にしかできない役割がある。
未来を見すえ、前にすすむことだ。
出せないかわりに3億円を自治体に寄付する。
みんなは、東北のためにここにとどまって仕事をしてほしい。
社員たちが一斉に顔を上げ、私を見た。
不安の色は消え、決意がみなぎっていた。

そして、その言葉を受けたみんなによって、生活必需品の調達や社内システムの修理、社員による自発的な営業再開などが行われました。
即決、即断、赤字覚悟、独断による行動でクビ覚悟の社員までいた。
無類の震災に見舞われた直後という非常事態にこうした動きがとれるのは、会社の理念が社員一人ひとりにまで浸透していたからでしょう。
このような組織風土は、どのようにして育まれたのでしょうか。
このような組織の根底には、どのような哲学があるのでしょうか。
この本は、こうした問に答えてくれるものです。

大山さんは、8人兄弟の長男として、大阪に生まれ、商売人の父を身近に見て育ちました。
同居していた、韓国出身の祖父母からは漢詩や論語を聞かされたそうです。
いわゆる、「右手にそろばん、左手に論語」そのままの環境です。
こうした環境が、のちの成功に導いたのかもしれません。
そして、父親が42歳で亡くなったため、19歳という若さで工場の社長に就任します。
ここから、大山さんの経営者人生がはじまりました。

大山さんが社長就任後、会社は町工場からメーカーベンダー、そして、地域型ホームセンターである「ダイシン」の経営を引き継ぐなど大きく変貌をとげます。
その過程を、時系列でかいま見ることができます。
それは、紆余曲折に富んだもので、嫌味がなく、共感できるものです。
節目節目に、なぜそう判断したのかについても詳しく書かれており、納得させられます。
こうした歴史が、ピンチはチャンスという組織風土を育てたのでしょう。

こうして大きく成長した今も、同社は株式を公開していません。
その理由について大山さんは、「私にとって大事なのは、事業内容よりも創業の理念がきちんと引き継がれることだ」と述べています。

では、創業の理念とはどのようなものでしょうか。

理念については、「企業理念」「経営方針」「アイリス管理者十訓」「企業成長の五原則」「業務指針」としてすべて本書に紹介されています。
量、質ともにボリュームがあり、これらすべてが社員の心に浸透しているということですから、そうとう盤石な組織とみてとれます。

経営者や会社のヒストリは、その、経営者や会社と関わりを持とうとしている人、または、すでに持っている人にとってとても興味があるものだと思います。
それどころか、一番知っておきたいことと言っても過言ではないでしょうか。

関わり方は、取引であっったり就職であったり様々ですが、いずれの場合も、本来相手がどのような理念とビジョンを掲げているか、そして、それが本物かどうかはとても重要なはずです。
しかし、情報を発信する側も受け取る側も、ともすれば、そのへんをおざなりにしてしまいがちです。
特に、中小企業はこうした情報をもっと積極的に発信すべきだと思います。

大山さんは、クラシック音楽が好きで、中でもベートーベンの第九に感銘を受けているそうです。
この本も、その第九をイメージしながら構成を考えたとのこと。
今年も、残すところあとわずか。
この”読む第九”で、1年を締めくくってみるのもいいかもしれません。


読後の本のゆくえ

売ってしまいました。

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